3・11のメッセージ ~光を照らし、光となりなさい~

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また、イエスは言われた。「灯を持って来るのは、升の下や寝台の下に置くためだろうか。燭台の上に置くためではないか。隠れているもので、あらわにならないものはなく、秘められたもので、明るみに出ないものはない。聞く耳のある者は聞きなさい。」
(新約聖書 マルコによる福音書 4章21~23節)

新型コロナウィルスによる被害が、昨年11月から世界各地で広がりを見せている中、私たちは今年も「3月11日」を迎えることとなりました。2011年3月11日に、東日本の各地で大きな地震が発生し、それに伴う形で、津波による甚大な被害、また、福島第一原子力発電所の事故の影響による放射能汚染が引き起こされました。あの日から今日で9年が経過することとなります。

東日本大震災の現状について、メディアはこのように伝えています。
「1日現在の警察庁のまとめでは、死者1万5899人、行方不明者2529人。復興庁によると、避難中の体調悪化などが原因の震災関連死は2019年9月30日現在、1都9県で3739人に上る。震災直後は推定47万人いた避難者は、2月10日現在で4万7737人となった。復興のインフラ整備が進み、仮設住宅にいた入居者は最大約31万6000人から約6000人に減少した。一方で高台などに造成した宅地は約1万8000戸、自宅を失った被災者が入居する災害公営住宅(復興住宅)は約3万戸がそれぞれ完成し、住宅再建は進んでいる。だが原発事故の影響で、福島県から県外に避難している人は3万914人に上る。」(毎日新聞

先日、「復興五輪」という言葉を久しぶりに聞きました。今年予定されている「東京オリンピック・パラリンピック」は、東日本の被災地の復興を旗印として掲げて招致したはずだったと思うのですが、オリンピック関連で資材は高騰、人材不足。平和の祭典であるはずのオリンピックのために、東北の復興は大幅に遅れてしまったのではないかと感じます。しばらく、「復興五輪」という言葉を耳にしなかったのは、私の情報収集能力不足のせいでしょうか。そうとは言い切れないかもしれません。

その東京オリンピック・パラリンピックの開催時期が数か月後に迫っている中、私たちの住むこの日本は今、ややもすると、オリンピックの開催を中止あるいは延期しなければならないかもしれないという状況に置かれています。原因は言うまでもなく、新型コロナウィルスの流行です。世界各地で猛威をふるっており、この日本においても、毎日のように死者、重症者についての報道がなされています。症状があらわれていないだけで、隠れて罹患している人は、私たちも含め大勢いるのでしょう。そして、この状況は、インフルエンザのようにしばらくすれば収束するものではなく、半年、一年のように長期間続いていくとも言われています。人々の健康と安全が第一ですから、オリンピックの中止・延期もやむを得ない気もしますが、そうすると、復興五輪、本当に大丈夫なのでしょうか。国が位置付けている「復興・創生期間」が、2021年の3月で終わりを迎えます。その後は新たな方策がたてられるようですが、この度のオリンピック開催に関するイレギュラーな事態を受けて、復興に向けての取り組みにも大幅な変更がなされるのではないかと心配しています。今や多くの人たちが忘れてしまっていることかもしれませんが、「被災地の復興という大きな目標無くして、オリンピックの招致は実現しなかったのだ」ということを、改めて覚えておきたいと思います。

インフラの整備が進められていると聞きます。私は2012年に一度被災地を見て回りました。「何も無い」というのが、当時の私の率直な感想でした。すべて津波で流されてしまっていたのです。今、当時のことを思い起こしつつ、テレビで流れる映像などを見ても、街の様子は大きく変わっていると感じます。被災地には、人々の生活が戻ってきている、部分的にはですが。

私たちに"見えている"のは、ほんの一部にすぎないでしょう。ニュースの映像などを見る限り、街の様子は、回復しつつあるように見えます。しかし、失われたものは二度とかえってこない。それどころか、放射能汚染という、今まで無かった状況がそこにあるせいで、故郷に帰りたくても帰れない人々が大勢います。「アンダーコントロール」という言葉が、むなしく頭の中によみがえります。汚染物を入れた黒い袋(フレコンバッグ)は、未だ、福島県内の仮置き場716カ所に計990万袋あると言われており(東京新聞)、また、福島第一原発の汚染水を貯めているタンクは増え続け、もう敷地内に収めきれない状況で、結局、充分な処理がなされたとは言い難い大量の水が、今後、海に放出されていくことになるだろうとされています。「原子力」「放射能」という"見えない"ものとの闘いは、今後も何十年、何百年と続いていくことになるのでしょう。

ここまで、東日本大震災の現状を、あえて細かく説明してきました。"見えなくされている"状況に、光を当てるためです。震災発生当時は、こちらがわざわざ求めなくても、テレビなどを通じて様々な情報を得ることが出来ました。しかし今や、必要な情報は自ら探し求めないと得られないようになってきています。それは、報道の自由度が低下してきていることも原因の一つかもしれませんが、やはり月日の経過と共に、東日本大震災のことが風化していってしまっているのが、最も大きな理由でしょう。めまぐるしく移り変わるこの時代の中で、未だ、震災の影響によって困難な生活を強いられている方々の姿がある。また、報道されない被災地の実態がある。私たちは、そこに「光を当てる」べきではないかと思うのです。

イエス・キリストは、たとえ話の中で、「灯を持って来るのは、燭台の上に置くためではないか」と言われました。聖書はまた、私たち人間のことを(周囲を明るく照らす)「光」にたとえています。光が無い闇の中では、私たちは何も見えません。陽が差し込まない真っ暗な部屋の中でも、誰かが照明を付けてくれさえすれば、しっかりと見えるようになります。同様に、何も知らなくても、誰かが教えてくれれば、知る者となります。忘れていても、誰かが教えてくれれば、思い出すことができます。そのように、私たちは、「光」の役割を担う、道を指し示す"誰か"であるべきではないか、そう思います。「そういえば、今日は『3・11』だね。」そんな会話を家族や友人と交わすだけでも、世の中を照らす「光」としての役目を十分果たせているんじゃないかと感じます。

今もなお、失意や不安、恐怖を抱えて生活しておられる被災者の方々がおられる。そのことを何よりも覚えておかねばならないと思うのです。本学のキリスト教センターでは、名古屋YWCAという組織とともに、福島に住む子どもたちや保護者の方々を対象にした保養プログラムを実施してきました。今年で最後の開催になります。放射能の影響を心配して、数日だけでも遠くの地で過ごしリフレッシュしたいという思いを持って、皆さん参加されるのですが、本当はもっと「できれば自分もそうしたい(でもできない)」という方々が大勢おられるのだろうと思うと、心が苦しくなります。私たち一人ひとりの力には限界がありますから、ぜひ国をあげて、更なる復興と被災者の方々の生活のサポート、そしてメンタルケアに取り組んでいただきたいと願っています。

この度の新型コロナウィルスの影響は、被災地にも大きな被害をもたらすことになるでしょう。人々の健康についてはもちろんのこと、せっかくこの数年で立て直した会社やお店の閉業・倒産を余儀なくされるところも出てくるかもしれません。これもまた、東日本大震災に関係する"見えない"被害と言えるのではないかと思います。そのような事態に陥らないように、また、少しでもその影響が軽減されるようにと祈るばかりです。

私たちは、見えているようで見えておらず、また、光の中を歩んでいるようで、闇の中をさまよっているかもしれません。その手に「灯」を持ちましょう。見えないもの、見えなくされているものに目を注ぐために。そして、私たち自身、「灯」となりましょう。世を照らすために。周囲の人たちの目に「光」を与えるために。隠れたものを明るみに出すために。復興のための、本物の「聖火」となりましょう。東日本大震災の現状を、見て、聴いて、覚え、語り継ぐ真の「聖火ランナー」になろうではないですか。

10年目を迎える東日本大震災。どうか、被災者の方々に神の平安が豊かにありますように。そして、東日本大震災を経験した「私たち」が、これからも、この国の再興と回復を願い祈り続けることができますように。新型コロナウィルスの問題も合わせ、この国の為政者たちが、正しき知恵と決断力をもって、国民一人ひとりの生活のためになすべき務めを果たしていくことができますように。主イエスの御名によって。アーメン。

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このページは、キリスト教センターが2020年3月11日 10:00に書いたブログ記事です。

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