日本の戦争
夏ですね。
夏には、長い休みを利用し、暑くて動きたくもありませんので、じっとしてゆっくりと本を読むというのが、けっこうマシな過ごし方だと思います。
ちょうど、終戦記念日などを挟むから、「日本の戦争」の雰囲気になります。
この時期を機会に、日本の戦争について考え、関連した本を何か一冊読み通す。
毎年夏になると、そう決めている人もいます。
私も夏なのでなにか読もうと考えていますが、今日は以前読んで、たいへん勉強になった本を紹介します。
『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』 加藤陽子
5講義分のわりに、読み終わったときはけっこう疲れました。
日本近代史をゆっくりと振り返りながら、なぜ戦争という決断を下したのか、様々な視点からこれまであまり指摘されてこなかったことも加えながら、序章~五章まで五日間通して行われた講義録。
東大の先生による歴史の講義だから、貴重な授業を聴いてるようで面白いのですが、受講者がエリートの中学生高校生たちということもあり、ついていくのがやっとという感じです。
自分が中学生や高校生の頃だったらこの授業についていけないだろうなあと思いながらの読書でしたが、しかしそれでも歴史という学問のおもしろさや奥深さ、人間にとって必要なものだという漠然とした感覚はたぶん十代の子にも伝わるのではないか、そういう講義であると感じました。
日本の戦争を考えるうえで、まずアメリカの状況を詳しくみていく。南北戦争とはなんであったのか、リンカーンの演説と日本国憲法の関係性、というような視点から考えるところがおもしろい。ルソーの考え「戦争とは主権や社会契約、国家の憲法に対する攻撃である」というのを引用して、戦争とはそもそも何か、戦争の本質を広い視点から考えさせる。世界史的なのです。そして歴史から我々は学ぶ。が、同時に人は歴史を「誤用」してしまうこともある。ということも教えられました。
日本の対外戦争を考える上で、敵対国や自国のことだけ考えるのにとどまらず、歴史の大きな流れをふまえより多角的にみている。非常に外交的に考えているという印象があります。
戦争というのは外交でかなり決まるということがよくわかる。と同時に日本の外交力の無さにも気づかされる。でもなかには有能だった人もいるのです。
「我が代表、堂々退場す」国連脱退時の外交官で有名な松岡洋右ですが、彼自身はそのことに反対していた。松岡はけっこう現実的な考え方をしていたと先生は指摘している。
一方で、日中戦争での中国側の外交戦略がものすごい。
若き駐米大使、胡適の戦略が「日本切腹、中国介錯論」という、日本の切腹を中国が介錯(切腹した人の首を切り落とす役割)するというもの。
端的に言えば、アメリカやソ連を日中間に巻き込むには、中国が日本の戦争を引き受けて、二、三年負け続けることだ。という戦略。
今日の日本は全民族切腹の道を歩んでいる。中国がそれを介錯するのだ。そのための犠牲であると。
あまりにリアルすぎる戦争観ですね、非常に悲壮な計算がされている。徹底的。
しかし加藤先生が指摘するのは、理論そのものというより、胡適がその持論を蒋介石や汪兆銘相手に堂々と述べているというところ。
私が、こうした中国の政府内の議論を見ていて感心するのは、「政治」がきちんとあるということです。日本のように軍の課長級の若手の人々が考えた作戦計画が、これも若手の各省庁の課長級の人々との会議で形式が整えられ、ひょいと閣議にかけられて、そこではあまり実質的な議論もなく、御前会議でも形式的な問答で終わる。
こうして日本の戦争を考えていくと、日本の問題がそのまま浮き上がってくると感じます。日本には議論が無い。議論をせずに物事を決めてきたのでしょう。
兵士の扱いの酷さ。これも日本的特徴の一つ。
44年から終戦までの一年半のうちの戦死者の九割は、遠い戦場で亡くなり、こうした兵士の家族に、どこでいつ死んだのか教えることができなかった。
日本古来の慰霊観からするとこうした魂はたたる。
民俗学の第一人者折口信夫がそのことに怒りを込めて歌っているのが印象深い・・。
そして捕虜に対する扱いの悪さ。
ドイツの捕虜となった米軍の死亡率が1.2%。日本の捕虜となった米軍の死亡率は37.3%!。
それは食糧にも表れる。敗戦間近の国民の摂取カロリーが1933年時点の6割に落ちている。一方ドイツでは敗戦間近までむしろ増えている!
こうくらべてみると日本の特殊さがわかります。
あとがきに、
戦争となれば真っ先に犠牲となるはずの普通の人々が、なぜ、自己と国家を過度に重ね合わせ、戦争に熱狂してしまうのか。
とあります。
いや、ほんとうに。なぜでしょう?
図書館サポーター あっきー
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