「敬神愛人」の系譜

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   2014年は名古屋学院大学創立50周年です。前身である名古屋英和学校の創立された1887年から数えると127年になります。私たちが建学の精神としている「敬神愛人」とはどのような言葉なのでしょう。創立者F.C.クラインが生きた明治に思いを馳せてみましょう。

■「敬神愛人」の意味
 「敬神愛人」――人間のおごりを戒め人との調和を説くこの言葉は、名古屋学院大学の建学の精神として、1964年の創立以来もちいられています。F.Cクライン(1857~1926)は、1887年(明治20年)、名古屋英和学校を設立し「敬神愛人」を校訓としました。その教えが今も生きているのです。
 新約聖書『マタイによる福音書』第22章37節から39節には、「律法の中でどの掟が最も重要でしょうか」との問いに対して、イエスは「心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい」。第2に重要な掟として「隣人を自分のように愛しなさい」と答えています。「敬神愛人」は、聖書の考えを端的に表したものです。
 私たちは「敬神愛人」を本学独自の理念であると思いがちですが、今回1800年代に設立されたミッションスクールの歴史を調べてみると、「敬神愛人」およびそれに類する言葉を掲げているのは、表1のとおりいくつもあることがわかりました。

01_表1_建学の精神.JPG

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■「敬神愛人」の歴史
 このように考えると、名古屋英和学校が開校した1887年当時、「敬神愛人」という語句は、すでに日本のキリスト教関係者の間で広く知られていたと考えられます。
 日本メソジスト教会の初代監督で、1890年(明治23年)から17年間青山学院の院長を務めた本多庸一(1849~1912)は、1874年東奥義塾の塾長に就任した際、建学の精神を「敬神愛人」と定めています。本多が揮毫した「敬神愛人」は、1878年ごろのもの(井上琢智による)で、書としては最も古いものです(図1)。
 その14年後、1892年(明治25年)、東北学院の開院式において、巌谷修の揮毫「敬神愛人」(図2)が掲げられています。名古屋中学校・高等学校が所蔵する「敬神愛人」は、奥野昌綱(1823~1910)によって1906年(明治39年)1月に揮毫されたものです。奥野は、日本最初の牧師として、またヘボン式ローマ字の創始者J.C.ヘボンの日本語教師として、知られています。


<図1>

01_図1_本多庸一揮毫の「敬神愛人」(1878年ごろ).jpg



  <図2>

 01_図2_巌谷修揮毫の「敬神愛人」(1892年ごろ).jpg

 

 

 



■「敬神愛人」の起源
 「敬神愛人」という言葉は、いつごろから使われるようになったのでしょうか。本多庸一が東奥義塾の建学の精神を「敬神愛人」としたのは、1874年でした。その6年前、1868年(明治元年)に儒学者中村敬宇は『敬天愛人説』を著しています。
 敬宇はイギリスの繁栄をキリスト教精神にあると考え、儒教の「天」によってその精神を理解しようと、「天を敬す。故に人を愛す。吾が同胞を愛すは、吾父を敬するに由る」と書きました(原文は漢文)。その後、彼は次第にキリスト教に傾き、1874年に宣教師G.コクランから受洗しています。敬宇が亡くなったとき、巌本善治はその追悼文において「明治八九年の頃、先生屡ば基督教を講じ、日曜日はカクラン師を招聘して同人社三百の書生に敬神愛人の道を聴聞せしむ」(「女学雑誌269号1891)と書いています。
 敬宇は、儒教者としてまた新しい「文明国家」建設を望む者として西洋をとらえようと試み、次にキリスト者として西洋に近づこうとしました。私たちが身近で触れている「敬神愛人」には、中村敬宇・コクラン・本多庸一ほか当時のキリスト者たちの活動と、キリスト教を受容しながら西洋社会に目を向けつつあった明治の社会情勢とが背後に存在したと見ることができます。

  

  

(参考文献)
1) 井上琢智.吉岡美国と敬神愛人(5)・(6).関西学院史紀要 (10)・(12).2004・2006
2) 荻原 隆.中村敬宇研究:明治啓蒙思想と理想主義.早稲田大学出版部,1990
3) 東奥義塾九十年史.東奥義塾,1967
4) 展示録.東北学院資料室,2010

(せとのスタッフ りんたろう)

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