機関リポジトリと学術雑誌の標準フォーマット

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 「機関リポジトリと図書館」では、大学図書館が機関リポジトリ(以下、リポジトリ)に取り組む意味を考えました。今回は、リポジトリに関連して、学術雑誌の標準フォーマットについて考えます。

 

■雑誌単位から論文単位へ
「これ何からコピーしたんでしょう」。卒論の締め切り直前、自分で複写した論文の出典がわからなくなって図書館に駆け込んできた学生が十数年前にはいたものです。論文を複写したときに、誌名や巻号のメモを忘れたのが原因です。
 学術雑誌は通常1号あたり複数の論文が収録されています。読者は雑誌を手に取ると、論文を読む前に、表紙や背表紙などから巻号や発行年または特集名などその号全体の情報を得ることができます。一方、リポジトリでは論文を雑誌から抜き出し、モノグラフ(単行書)のように収録しているため、紙の雑誌がもつ物理的な姿は消えています。大学紀要を論文単位に切り分けて単純にPDFに変換すると、先の学生さんと同じことが起こり得ます。このため、雑誌タイトル・巻号など記載した別紙を論文に添付してリポジトリに収録する例もあります。
 最近の学術雑誌は、論文単位で複写されることを意識してつくられています。たとえば、各論文の第1頁の柱に、雑誌タイトル・巻号・掲載頁・発行年を入れ、表紙を見なくても書誌事項がわかるよう配慮しています。今後のリポジトリの普及を考えると、学術雑誌は印刷物として流通可能なデザインを採用した上で、モノグラフとしてもあつかえるような設計が求められているといえます。

 

■論文はどのように選ばれるか
 利用者は、リポジトリに収録されている膨大な量の論文からどのように論文を選ぶのでしょう。あらかじめほしい論文が決まっている場合を別にすると、キーワードを入力してヒットした中から、何らかの基準で論文をダウンロードすることになるはずです。たとえば、
・その著者の別の論文を知っている
・知らない著者だが、その分野で著名な雑誌に掲載されている
最初にこのような選択が行われるであろうことは充分想像されます。
 では、著者も雑誌もなじみのない論文がヒットした場合、研究者の情報選択行動はどのようなものになるのでしょう。まず抄録で論文の概要が把握されます。ついで、多くの場合、参照文献が確認されるように思われます。どのような文献に基づいているかをみれば、その論文の方向性が類推可能だからです。
 そのとき、参照文献の書き方が統一されていなかったり、データの出所が欠落していたらどうでしょう。抄録の内容が求めているものと一致したとしても、その論文が信頼を得るのは難しいと考えられます。論文には学会により表記上の決めごとがあります。論文の形式を整えることで、研究者は研究に対するモラルを示しています。出典の記述が不正確だと、その研究の精度も疑われてしまうのです。

 

■リポジトリと学術雑誌のフォーマット
 では、誌面スタイルなど雑誌本体のフォーマットは、どのように考えるべきでしょう。学術雑誌は、表紙のデザインなど雑誌としての基本的な枠組みが定められ、そこに毎号新しい論文を収録します。読みやすさ、論文の探しやすさは、このようなフォーマットに影響されます。

 雑誌の外観や形態といった"容れ物"としての設計が充分でないために、価値を半減させる事例もあるといいます。医療系の学術雑誌50誌をサンプルとして、誌面スタイルの標準準拠、収録論文の検索等を発行者が配慮しているかについて、雑誌の形態的な面からのみた調査によると、大学紀要類は出版社系雑誌、学会誌よりさらに低い評価となりました(注1)。このように考えると、読者の信頼を得るためには、論文の形式上の正確さに加え、雑誌本体のフォーマットにも配慮する必要があります。
 リポジトリでは、論文単体で登録されるため、雑誌という姿は消えています。しかし、発行者がどのような意図をもって雑誌を設計しているかは、論文の第1ページから読み取ることができます。たとえば、
・原著論文とレビュー論文その他の区別
・査読日
・抄録とキーワードの記載
などが表示されていたらどうでしょう。その雑誌は、掲載論文の水準を確保した上で、研究者がより迅速に論文を選べるよう配慮して設計がなされていることがわかります。リポジトリの利用者はここから雑誌発行機関の意図を読みとり、その論文の有用性を判断することが可能です。つまり、雑誌のフォーマットも、リポジトリでの論文選択に影響するとみなすことができるのです。

 

■リポジトリ内での競争
 リポジトリは、原則無料で論文を入手するための仕組みです。このシステムは研究の情報量を格段に増大させるため、不要な情報を排除するという選択も必要になります。たとえば、査読を採用しない雑誌を最初から検索対象としない、といったように。
 電子ジャーナルは、すでにこのような環境のもとで使われています。印刷ベースの紀要を単純にリポジトリに収録しただけでは、競争に参加することにはならないと考えた方がよさそうです。個々の論文(そして著者)が有利になるような制度と外観を選択することが、リポジトリ時代の紀要に求められていると言ってよいでしょう。
 その論文を必要とする世界のどこかの研究者に直接届けることこそ、リポジトリの目指すところです。論文のレベルを保障し、電子ジャーナルの標準仕様(注2)を採用すること、そして研究に光が当たるようキーワードや参照文献に配慮すること。これらがリポジトリ時代の大学紀要に必要であると考えられます(注3)。

 

(注1) 松坂敦子ほか.学術雑誌, 紀要類の書誌記述フォーマットの現状評価.情報管理 50(11), pp.765-773, 2007

(注2) 電子ジャーナルの標準的なフォーマットには、SIST(科学技術情報流通技術基準)があります。SISTは、科学技術振興機構が科学技術情報の流通を促進させるための基準として策定しており、14種類ありますが、電子ジャーナルに関係するのは、主としてSIST07(学術雑誌の発行と構成)SIST08(学術論文の執筆と構成)です。

(注3) 『名古屋学院大学論集; 医学・健康科学・スポーツ科学篇』は、査読を採用し、掲載論文にキーワードを付しています。

 

(瀬戸のスタッフ りんたろう)

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