ビブリア古書堂
三上延
アスキー・メディアワークス、2011
(本書は図書館で所蔵していません。ご希望の方は、購入リクエストを)
三上延『ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち』(以下、『ビブリア古書堂』)は、アスキー・メディアワークスより、2011年3月に発行されたいわゆるライトノベルに属する小説である。ライトノベルとは、中高生を読者対象とした小説群を指す。昔のジュヴナイルとかジュニア小説というジャンルからの派生系と言えようか。
さて、この世にある本1冊ごとに、すくなくとも3つ謎が潜んでいる、と私は考える。まず、その本を書いた著者に、次にその本を発行した出版社に、3つ目はその本を読んだ読者に。『ビブリア古書堂』は、その3つめの謎を、北鎌倉のビブリア古書堂店主・栞子(しおりこ)とその店員五浦大輔(ごうらだいすけ)が解決する小説である。作品には、実在する本4点が登場する。そしてその本を所有すること自体が謎をはらみ、事件が起きる。
栞子は、その余りにもシャイな性格のために人と会話ができないが、なぜか本の話になると雄弁になる。一方、店員の五浦は、ある出来事から活字恐怖症におちいり、本が読めなくなってしまった23歳の元フリーターである。五浦が、北鎌倉のビブリア古書堂に勤めるきっかけになったのが夏目漱石(1867~1916)の『それから』。昭和31年刊行の同書に漱石のサインらしい書き込みがあり、そこから栞子の推理がはじまる。
つづいて小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』をあつかう第二話では恋をする身勝手な女子高校生が、クジミン『論理学入門』の第三話では過去のある男が、第四話では栞子自身が太宰治の『晩年』に絡まり、事件が発生する。
古書通しか知らないだろう「せどり屋」が登場したり、他の文庫にはないのに新潮文庫だけに栞ひもがついていることを知らされたり、ある男の過去を調べるために新聞記事データベースをつかったりと、図書館的な観点から見ても、楽しく読むことができる。
作者・三上延は、なぜこの小説を書いたのだろう。あとがきを読むと、作者の本好きがうかがわれる。しかし、マーケティング的に見た場合、ライトノベルの読者層に、夏目漱石や太宰治が受けるだろうか。もちろん、それらを読んでいなくても、『ビブリア古書堂』をおもしろく読むことはできる。おそらくは、ライトノベルの一般的な読者にとっては、漱石も小山清もクジミンも太宰も、アンデルセンさえ「謎」のひとつなのだろう。いや、ひょっとすると、若い読者層のなかの一部、相当な「本」好きな読者に向けたメッセージなのかもしれない。
作品の随所に登場人物にまつわる秘密がちりばめられていて、シリーズ化の意図が感じられる。実際、2011年10月には、続刊が発行されるとのことだ。どうも、コアな読者が栞子さんにとりつかれたらしい。この先、作者は、現在の読者とともに作品を成長させようとしているのかもしれない。
続編のさらにその次が書かれるには、新しいバイプレーヤーが必要になる。栞子のキャラクターが花開くような、新しい個性を宿した人物が注入されれば、魅力的なシリーズになりそうな予感さえする。もし、そのような物語を書いてくださるのなら、ネタを提供しますが、三上様。
(瀬戸のスタッフ りんたろう)
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