壮大な貧乏食堂の物語
角田光代 『ツリーハウス』

新宿の小さな中華料理店「翡翠飯店」を営む藤代家の三代記。
祖父の死をきっかけにぬけがらのようになってしまった祖母ヤエがもらしたひとこと。
「帰りたい」
どこへ?
かつて祖父母が出会ったという満州のことなのか・・・。
一家の最年少 良嗣はヤエとともに中国へと過去をめぐる旅に出る。
3世代の家族の歴史が現代と過去を交錯させながら語られる。
昭和から平成へ、時代を象徴するさまざまな事件や出来事と絡めながら、
多少風変わりではあるにしても平凡な庶民の生活を淡々と綴っている。
サクセスストーリーでも転落の顛末でもない。
ただ、"生き延びるために逃げ続けた"と語り、そしてそれを後ろめたく思い続けている
ヤエの切なさと、そんな人生を通り過ぎてきたからこそ伝えたい想いが胸に迫る。
最後にその想いをしっかり受け止めた良嗣が見つけた希望に救われる。
時代は流れるけど過去は消えない。
でもそれもそういやなことじゃない。
過去は消えないから、だからこそみんな今ここにいる。
自分の家族の軌跡って案外知らない。
今では会えない祖父母ともっといろんな話をしておけばよかった。
もしもう一度会えたら・・・。
自分からはほとんど話してくれなかった昔の話、聞けば答えてくれたかもしれないのに。
あの時が最後だったなんて、会えなくなってから初めてわかるものなのに。
「後悔したって、もし、なんてないんだよ。」
ヤエの言葉があらためて心に響いた。
(瀬戸のスタッフ くり)