学生サポーター: 2019年10月アーカイブ
20世紀の重要な小説家にフランツカフカがいます。といっても本人が生きている間は全然評価されませんでした。
その中に、友人に聞かせて大いに笑わせたという物語があって、それが『変身』
『変身:掟の前で 』光文社
『変身:断食芸人』岩波文庫
いくつか訳があります。
ある日自分の部屋の中で目が覚めて起きたら、虫になっていた。というおかしな始まり方をします。カフカの話は全部こういう、はじめに何か絶望的な状況に陥るとか、いきなり不条理さがやってくるという仕掛けになっています。気づいたときには、手遅れでもうなにかに巻き込まれているという負の状況から始まります。といってそこからなんとかして這い上がって負の状況から脱出するというものでもありません。脱出はさせてくれません。絶望とは、脱出できないからこそ絶望と呼ぶ。カフカを読んでいるとそんな風に感じるようになります。
虫になったことに気が付いたザムザは、その状況が受けいられず苦しみます。しかしそのことに疑問をもつことはなく、どうやってベッドから降りようかとか、どうやって部屋から抜ければよいかあれこれ考えます。セールスマンとしての仕事にもいかなくてはなりません。でもそのうちに家族に見つかってしまう。
悲しいけど、どこかばかばかしい、というのがこの小説の深みを作っていると思います。単に悲劇という劇的な感じがあるのではなく、淡々としていて終始孤独のまま時が過ぎていく。それまで親や妹のために働いて一家を支えてきたザムザだが、今度は逆に助けてもらう番に・・。だが結局のところ、絶望から抜け出すことはできず、家族にも見捨てられてしまう。よい終わり方はしません。
人間は、たえず変わっていくものです。昨日の私と今日の私は違います。でも変わることを受け入れられず、これが自分だと思っていた「私」に固執してしまう。変わることに自分も周りも、認めない。こういうところをうまく描いています。
部屋の中からなかなか抜け出せない、というと引きこもりや寝たきりを表しているようですが、そういうものの隠喩として読むとよくわかるという人も多いと思います。引きこもりとか、精神病のひとがこの本を読んだら、とてもよく共感して、引きこもりじゃなくなっていた、というような話を聞いたことがあります。
なぜ、勇気や希望を与える物語や幸福を感じさせてくれる話ではなくて、絶望を感じさせるもの、人間社会の不条理を描くものに、ある種の魅力をある種の人間は感じるのでしょうか。
カフカを読んでみると、こういう話を読むことで得られる利点というか、快楽のようなものを見つけるかもしれません。
カフカの時代にはなかなか理解されなかったが、その後の社会で受け入れられ、現代まで読み継がれるようになりました。
絶望的な気分のときとか、現代社会の中で孤独を感じる人に良いかもしれません。
図書館サポーター あっきー
TVアニメや実写映画にもなった人気マンガ『宇宙兄弟』に
登場する数々のエピソードやセリフを引用し、
自分の強みを活かしながらリーダーシップを発揮する方法や、
理想のチーム作りを指南する!
もてない男のための本なら、江戸川乱歩の短編集があります。
『人間椅子』江戸川乱歩 角川書店 角川ホラー文庫
醜くて、容姿に自身がなく、内省的で、自分を卑下しがちで、すぐ悪いことを思いつくというようなタイプの人がよく出てきます。女性にある種の恐怖感を抱いていたり、特殊な性癖の持ち主であったり、犯罪者的な思考をしていたり‥‥
読んでいると、ゾクゾクしてきて恐ろしくなってくるが、その中でも、その感覚わかるとか、その気分わかるというような共感を覚える人は多いと思います。江戸川乱歩というと探偵ものの印象がありますが、そのほかにも、ホラー、怪奇・幻想系や人間の異常な心理を扱ったものや、男女の偏執的な愛憎を書くものが多く、どれも後世まで伝わる魅力があります。その人間心理の複雑怪奇さを、端正な言葉で読みやすい文章で書いているところがすごい。書いてあることが異常なのに、文章がとても上品で、整っていて、読みやすいので、その対照が際立っていて、戸惑ってしまう。つい引き込まれてしまうのです。
椅子の中に潜むことで、皮一枚越しに女に触れられるということを考えた男について描いた『人間椅子』。狭いところ、暗いところを好み、人には見られたくないが、しかしそれでも快楽は味わいたいという男の胎内回帰願望(そんなものがあるのか?)と性的苦悩を解決せようとした行動というのをうまく書いていると思います。
人間は目の前のものを無意識のうちに真似をしてしまう、という習性を利用した完全犯罪を描いた『目羅博士』。
他、妻とその不倫相手の共謀によって殺されてしまう哀れな男の話、妻の一瞬の悪知恵によって死ぬまで閉じ込められてしまうという夫を描いた『お勢登場』。鏡に囲まれた部屋で狂ってしまう男の話、絵の中の人と共に電車に乗って旅をしている不思議な男の話‥‥と異常な、病的な、偏執的な興味深い話が続きます。何かを告白するような書き方で語られるから、それが恐ろしさとを増し、好奇心を誘っているような気がします。
それから乱歩の特徴は、醜男の苦しみとそれをあざ笑うかのように翻弄する女の冷酷さ、冷ややかさ、というのがよく出ています。リアルだなあと思います。
しかしなぜ女というのはこう冷ややかなのでしょうか。それとも男が女に対してある種の冷ややかさを求めているのでしょうか。
図書館サポーター あっきー
人それぞれに抱くものは違うと思うけれども、とても考えさせられる内容になっております。
本の紹介
「机もなんにもない部屋で売れないまんがをセッセと毎日かいていた。トキワ荘はまんがの宝庫だった。生きた まんがの参考書がゴロゴロいるのだ。まんがのことでいきづまると先輩の部屋へおしかけ、相談した。毎夜集ま って夜明けまでまんがを論じあった」(赤塚不二夫) 昭和三十年代初め、東京・豊島区椎名(しいな)町(まち)の二階建て木造アパート「トキワ荘」。入居していた手塚治虫を慕う、若く才能のある漫画家たちが次々と引っ越してきて、「ト キワ荘」はいつしか少年マンガの地となっていった。 住人であった漫画家たちが、それぞれの作品で当時の思い出を綴る貴重な記録!!
伝説の漫画短編集の、待望の復刊!昭和の時代を記録する資料としても重要な本書は、長く入手不可能となっており、マニアの本でした。
手塚治虫ほか計12人の力作をお楽しみください。
料理をしたいけど料理の基本がわからない人、