本にまつわる話: 2011年1月アーカイブ
大阪市立中央図書館で行われた「LLブックセミナー」に参加してきました。
参加した目的は、
池上彰さんの講演「わかりやすく伝えるには」を聞きにいくことでした。
池上さんは、出演されていた「NHK 週刊こどもニュース」の舞台裏を紹介しながら、伝えることのむずかしさと 伝えるためのポイントについて いつものようにやさしく 解説されました。
内容はこちらでも紹介されています。
フロアからの「図書館はどういうことに取り組んだらよいですか」という質問に、
「図書館は編集してほしい。
その時々のニュースや関心に応じて、店頭を編集する
そのために(図書館員は)常にニュースに敏感で、
感性をとぎすます必要がありますよね」
と、う~ん、説得力のあるお言葉!
来てよかった。
さて、池上さんの本は、図書館に何冊あるでしょう?
なんと、30冊もあります。
ぜひ、みなさんも読んでみてください。
LLブックの"LL"が、スウェーデン語で「やさしく読める」という意味であること、
障害がある方のためのLLブックがまだまだ少ないこと、
そのために活動されている方がたくさんいること など
知らないことがたくさん。
ひさしぶりの大阪は 実り多く、すがすがしい思いで図書館をあとにしました。
(名古屋のスタッフそら)
女優の森光子は、1961(昭和36)年から舞台「放浪記」の主役を演じてきた。その出演回数は、48年を経て2000回に達していた。政府はこの偉業を称え、女優として初めて国民栄誉賞を授与することにした。
このニュースが流れた2009年5月、白鳥図書館3階カウンターに、ひとりのアメリカ人留学生が現れた。
「フミコハヤシの"ホ~ロキ"が読みたい」
留学生からの突然のレファレンスに、カウンタの図書館員は戸惑った。
「えっ? 訪露(ほうろ)記?、いや翻弄(ほんろう)記、もしかしたら俘虜(ふりょ)記ってことも......」
林芙美子は、1903年生まれ。今の若い世代には馴染みがない小説家と言える。また留学生の発音では、すぐに小説のタイトルをイメージするのはむつかしいかもしれない。しかし、事前に新聞などで、先に触れたニュースを知っていたらどうだろう。図書館での問い合わせは、新聞記事やテレビでの報道がきっかけになることがある。このような問い合わせに備え、図書館員は出勤前に新聞に目を通し、開館前に新聞を棚にかけるときには各紙の一面に目を通してアンテナを張っている。
留学生が読みたいと言ったのは、林芙美子が1930年に上梓した小説『放浪記』。第一次世界大戦後の東京を舞台に、貧乏と飢えに塗れた作者の半生を描く。1920年生まれの森光子は、『放浪記』に描かれた時代を実際に見た世代である。森が、この舞台に特別な感慨を抱く理由だろう。
「"ホ~ロ~キ"はありませんか?」
留学生がもう一度口を開いた。ようやく意味を察した担当者が、すぐにOPACを使って所蔵を確認する。瀬戸キャンパスで所蔵しており、2、3日で名古屋キャンパスに取り寄せることができる。しかし、OPACで見つけた『放浪記』は、次のように表示された。
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放浪記 林芙美子著
東京 : 日本近代文学館 ほるぷ出版(製作) 図書月販(発売), 1972
注 記: 新鋭文学叢書(改造社昭和5年刊)の複製
著者情報: 林, 芙美子(1904~1951) (ハヤシ, フミコ(1904~1951))
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注記を見てほしい。昭和5年刊の複製とある。つまり、この『放浪記』は、旧漢字、旧仮名遣いで書かれている。
「古イ漢字、読メマセン」留学生の顔が曇った。
もう一度、OPACの表示を見てみよう。著者情報に生没年が記載されている。その没年から死後50年以上経過していることがわかる。
「では、"青空文庫"に行きましょう」館員は、カウンタ越しに声をかけた。
「青空......? 今日ハ曇リダヨ」
(大丈夫。今日は晴れる。心配しないで)
青空文庫は、インターネットにある電子図書館。著作権の切れた作品と著者が対価を求めない作品を、だれもが無料で読めるようテキスト形式で入力してある。公開されている作品の数は、2011年1月現在で10449件にのぼる。登録されている作品は、だれでもテキストを自分のパソコンにダウンロードして読むことができる。
日本での著作権保護期間は、著者の死後50年間。1951年に亡くなっている林芙美子の作品は、青空文庫に登録されている可能性が高いと館員は判断した。想像したとおり、『放浪記(初出)』は、青空文庫で新字新仮名で読むことができた。
留学生がもっていたパソコンには、英和辞書がインストールしてあった。これなら、難しい漢字もカーソルを合わせるだけで英語の訳が表示される。留学生は、青空文庫のURLを記したメモをもらうと、笑顔で「アリガトゴザイマス」と繰り返した。
(ホラ、晴れたでしょ!)
担当者は眼鏡をかけ直し、留学生の後ろ姿を見ながらつぶやいた。
(りんたろう)