君たちはどう生きるか

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『君たちはどう生きるか』 吉野原三郎

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 この物語は1930年代、ちょうど日本があの軍国主義に向かう時代、二・二六事件前後の激動の時代に書かれた倫理を扱った本です。あの時代日本人はどんな暮らしをして、いったい何を考えていたのか。主人公コぺル君(潤一)はどう生きたのか。

 この話は、中学生コぺル君と彼の叔父さんによる対話によって進められていきます。コぺル君は世の中の疑問を持つようになるとそれを叔父さんのところに持っていく。それに叔父さんは答える。だけどただ答えるだけじゃない。叔父さんはちゃんとこれはどういうことなのか考えさせる。そして立派な人間とはなにか、人間生きるということはどういうことなのかを一緒に考えます。倫理について想像されるような堅苦しく、説教くさいものではなく、わかりやすい物語として提示しているところが良いですね。

 ある日コぺル君はたいへん重要なことに気付く。それは物事を客観的に観ること。叔父さんはそのことに深く感銘を受けて、書き記していきます。コペルニクスが地動説を唱えて世界をひっくり返したことを例にとって

  人間というものが、いつでも、自分を中心として、ものを見たり考えたりするという性質をもっているためなんだ。

 よくコペルニクス的転回と言いますが、物事の発想を根本的に変えることで新たな道が開かれる、なんてときに使われます。このことから叔父さんはコペルニクスというあだ名をつけます。でもコペルニクスって長いですよね。それでいつのまにかコペルになった。(笑)

 なぜこの考え方が大事なのでしょうか。叔父さんは書きます。

  コペルニクスのように、自分たちの地球が広い宇宙の天体の一つとして、その中を動いていると考えるか、それとも、自分たちの地球が宇宙の中心にどっかりと座りこんでいると考えるか、この二つの考え方というものは、実は、天文学ばかりの事ではない。世の中とか、人生とかを考えるときにも、やっぱり、ついてまわることなのだ。

  子どものうちは、どんな人でも、地動説ではなく、天動説のような考え方をしている。

 誰でも子どもというのは自分中心に考えています。例えば、学校は自分の家からこっちの方向にある、ともだちの家は自分の家からあっちの方向にある、という具合に。自分の家は地図の中のここにあるとか、あるいは日本のなかのどのへんにあるのかという考えはできません。動物もそうですね。でも成長してくるとだんだんと地動説的な考えになってきます。これが大人になるということなんだけど、叔父さんはこの意味での大人になるということは難しいことなのだと言います。

  コペルニクス風の考え方の出来る人は、非常に偉い人といっていい。たいがいの人が、手前勝手な考え方におちいって、ものの真相がわからなくなり、自分に都合のよいことだけを見てゆこうとするものなんだ。

 たしかに大人になってもつい自分中心にものごとをとらえてしまいがちです。これは世界をみるときにも考えるべきこと、世界を日本を中心にみていくだけでは不十分で世界的な視点で日本をみるという客観的な思考が必要です。こういうのってやっぱり生きてくうえで重要なことですよね。自分が欲するままに世界をとらえてはいけない。

 この部分を読んだとき、なぜ本を読むのかということの根本的な理由がわかってきました。世の中はどうなっているのか、世界はどういう仕組みで動いているのか、こういうことを知らなくちゃならないのです。でないと独りよがりの考えからいつまでも抜け出せない。今の世の中こういう考えが足りないよな、ってことでこの本が最近のベストセラーになっているのかもしれませんね。

 叔父さんはコぺル君と話したことに関して、後でノートを付けるようにしています。このようなことを繰り返していくうちにコぺル君は成長していくんですね。ここで重要なのは、コぺル君がどのように成長していくか、という少年の目線でみるだけでなく、叔父さんのしていること、つまりまわりの大人たちは子供たちにどう教えてやるべきなのか、大人の役割は何かなどについての視点で読むことができるところです。だから、子供が読むのはもちろん、大人たちにとっても考えるべきことが書いてあるんですね。

 物語の中盤以降、ナポレオンに関する英雄礼賛の話や学校での暴力のともなう子どものケンカが描かれます。このあたりを読むとに、戦争に入るちょっと前という時代的な背景を感じます。あの時代日本人はどんな思想をしていたか、倫理観はどんなだったのかを考えていくと、この本を読む今日的な意味が見えてくると思います。

 この書は2017年にでた漫画版に加え、ポプラ社からジュニア向けとしても出ています。

漫画君たちはどう生きるか

君たちはどう生きるか』 ポプラ社


図書館SA あっきー

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