『スピノザの診察室』夏川草介著。
タイトルを見た時、頭にクエスチョンマークが浮かんだ。
舞台は京都の町中の地域病院である。主人公は内科医。どうして哲学者のスピノザが出てくるのだろうと。
京都の町中を自転車で往診もする白髪混じりのアラフォー独身医師の雄町哲郎ことマチ先生。最愛の妹が若くしてこの世を去り、 一人残された甥の龍之介と暮らすために今の職を得たが、かつては大学病院で数々の難手術を成功させ、将来を嘱望された凄腕医師だった。
『スピノザは哲学の表舞台に出てくることはなかった。亡くなる直前まで執筆は続けていた。レンズ磨きの仕事をしながら。レンズ磨きの仕事は高度な職人技。スピノザの磨いたレンズは曇り一つない見事なものだった。』
マチ先生もまた最先端の医学の表舞台から降りたのかもしれない。けれどマチ先生もマチ先生のレンズを磨いている。
マチ先生の患者の多くは老人で、もう治る見込みがない人も多い。もう頑張れないと言う患者に『頑張らなくていいんです』と言う。
『先生がそばにいたら安心して逝けそうなんや』『おおきに先生』患者の中には身寄りのない人もいる。我儘をききながら、見放さない。
マチ先生は京都の和菓子が大好きで、特に矢来餅、阿闍梨餅、長五郎餅に目がない。私が1番共感したマチ先生の言葉。
『辛い時や頑張っている時は甘いものを食べるに限るんだよ』 
マチ先生、座右の銘にします。
(瀬戸の図書館スタッフ:みんみん)