★Bridge★No.38 木船 久雄 先生
経済学部 木船 久雄(きぶね ひさお)先生です。
木船先生は、「現代社会と経済」「資源経済学」「資源・エネルギー政策」「マクロ経済学入門」などの科目を担当されています。
2017年3月までは学長をされていたので、4月から久しぶりに授業を担当されます!
それでは、先生の思いをご紹介します★
■■■ どんな思いをもって、授業に臨んでいらっしゃいますか? ■■■
僕は、エネルギーや環境について専門研究していますし、社会科学系の教員ですので、
やはり学生にはできるだけ広い社会を見てほしいという意識がありますね。
高校までは、教科書や与えられたものを覚えてくような勉強方法が中心だったかもしれませんが、
大学では、物事の流れ・・・なぜそういう出来事があって、私たちはそこからどんな教訓を得て、
今何をしなきゃいけないか、というようなことを自分で考えたり、興味をもって調べていくことに
なります。
社会は本に書かれていることに留まらず広く色々なことがあるので、世界全体に目を向けて、
そういうことに気がついてほしいし、チャレンジしてほしいです。
ですから僕も、授業では、自分が色々なところで経験したことを話すようにしています。
●木船ゼミはどんなゼミ?
僕のゼミは資源経済学系のゼミですが、学生には、新聞記事の発表と解説を必ずさせています。
春学期は自分の興味のある経済・社会の問題を、どんな記事でもいいから取り上げて、解説して、
質疑応答する、ということをしました。
できるだけ世界の問題や時事についても意識してほしい。
社会で起こっていることについて、一家言持てるようになってほしい。
授業やゼミを、自分の考えを持つ機会にしてほしいと思っているので、できるだけ、
「世の中にはこんなこともあるよ、あんなこともあるよ」という情報を提供するように心がけています。
なぜそうなるのか、そこから自分がどんなメッセージを感じるのか、考える機会をなるべく多く作りたいと思っていますね。
ゼミではいくつか夏休みの宿題を出しました。
まず、新聞記事の解説を1週間に1本。
社説・論説を取りあげて、要約して、自分の意見をコメントしなさいという課題です。
次に、月に一回読書感想文の提出があります。中学生みたいですけれど(笑)
本を読む事自体が大切だと思っているので、こういう本を読みなさいという指示はしようと思っていません。でもいいから、とにかく月に一冊本を読んで、読書感想文を書くんです。
今、なかなか学生は文章を書かないからね。段落の1文字下げとか、意識しないんですよ。
なぜかというと、メールはみんな左あわせでしょ。だから、感想文を提出させて、多少添削してコメントして返すときに、「段落を気をつけてね」と書いたりします。
いずれ卒論を書かなきゃいけないし、社会人になったら業務報告も書かなきゃいけないですからね。
今年は、6年ぶりに授業を担当しているので、結構、自分も教えられることがありますね。
学生が何を読書感想文の題材にしているかというとね、これがライトノベルなんです。
ゲームがらみだったり、アニメになったり、小説になったり、もうマルチメディアでそういう世界が
あるんですね。僕が知らないタイトルの本ばかりですよ。で、本屋で探してみたら、ライトノベルの
コーナーって、いっぱいあるんだよね!びっくりしちゃいましてね、そこは勉強させられました(笑)
新聞記事と読書感想文はゼミの課題でもあったので、春学期中も課題として出していたんですが、
4・5・6月課題を出していない人には夏休み中の宿題2倍です。
これがとっても嫌がられているんですよー!(笑)
それでも、やらなきゃいけないことは、ちゃんと最後までやらなきゃいけないんだって、
そういう思いで題を出しています。
最後に、夏休みの宿題がもう1つあります。
3年生は秋学期に調査研究報告書を作成しますので、それを作るための事前調査の企画書を用意すること。
2年生も、秋学期に自分の調査内容をパワーポイントで発表させようと考えているので、テーマを決めて
下調べするための企画書を用意してくること。
うふふ、これも嫌がられてるよー(笑)
学生は、小中学校の頃みたいに、最後の1週間でバタバタ焦ってやるのかな(笑)
くり返しになりますけれど、決められた教科書や範囲だけ暗記すればいいわけじゃない。
できるだけ機会あるごとに広く社会に興味を持てるように、このメッセージを伝えようと思っています。
そうしないと、自分が何に興味があるのか、わかんないもんね。
視野を広げるために、学外はもちろんのこと、大学内でもいいから、色々な人がいるところでアルバイト
やボランティアをしてもいい。留学もいいですね。
スマホでゲームばかりやっているとか、同じような仲間でいつも一緒にいるとか、そういうところから
一歩外に出て、多くの機会に触れてほしいです。
●木船先生は、エネルギーや環境問題には、どういったきっかけで興味を持たれたのですか?
自分が好きでやってきたかっていうと、成り行きでこうなったっていうのが、実際のところです(笑)
僕、正直、大学時代あまり真面目に勉強したわけじゃなくって(笑)
でも、海外には興味があったので、大学2年生のとき、初めてソ連(1975年だから、「ロシア」じゃなくてまだ「ソ連」だった頃です。KGBのいるソビエト連邦!)を周ってヨーロッパ旅行をしたんです。
ユースホステルの仲間たちと一緒に、1月半くらい。
まだ19歳の頃です。
それが自分にとって人生初の海外旅行でした。
ソ連に2週間くらい居て、そこからローマを経由してヨーロッパの国々を巡って、最後ロンドンから帰ってきました。
それからの学生時代は、アルバイトをしたらバイト代はみんな旅行に使ってましたね。
旅行のためにアルバイトしていたようなもんです。
大学3~4年に掛けて、2ヶ月ほどインドにも行きました。
そこで世界が広いって分かったし、「あ、これでも人間は生きていけるんだ」っていう自信を持ったりも
して(笑)
そんなわけで、海外に関わる仕事がしたいという思いがあって、卒業後は商社に勤めたんです。
輸出入の通関業をやっているところで、業務にあたり「通関士」という資格をとることになりました。
当時は毎晩のように夜は酒盛りし、麻雀し、ダンスをし、楽しいサラリーマンだったんだけど(笑)、
その試験を受けなければいけなかったので、どんなに楽しい遊びをしていても10時になったら帰って、
朝4時に起きて2時間くらい毎朝勉強するようにしたんです。そういう生活をしていたら、
「あれ?僕ってこんなに真面目に勉強できるんだ」って、そこで初めて気がついた!(笑)
勉強するとそれなりに面白いし、なるほどと思うことも多くて。
せっかく貿易関係の仕事をしているから、貿易の理論を勉強しようと思って、資格試験が終わってからも
朝起きて勉強するスタイルは続けていたんですよ。その時の貿易理論の本の著者が、田中喜助という方で、
早稲田大学の先生だったんです。「この先生に就いて勉強したいな」と思って田中先生のゼミを志望して、試験を受けたら通ったので、3月に会社を辞めて。こうして大学院に行って、修士のテーマとして資源貿易の理論をやったんです。
博士課程に行こうかどうしようか迷っていた時に、たまたま日本エネルギー経済研究所というところが人を募集していて。「木船くん、こういう研究をしているなら、君、ここ受けてみたら」って勧められて、
「どうしましょうかねー」って受けてみたら通っちゃった(笑)そういうわけで、その研究所でエネルギー関係の勉強をして。
エネルギーだとか、資源の現状を含めて勉強させてもらったのは、まさにこの研究所なんですよ。
だから研究所の人脈もいまだに繋がっているし、その研究所からMIT(マサチューセッツ工科大学)に
2年ほど勉強に行かせてもらったんです。そういうこともあって、研究所時代は鍛えられましたね。
日本の社会科学系の教員の育て方って、あんまりシステマティックじゃないんですよね。
理系の場合、講座制があって、教授がいて准教授や助教がいて、そこに大学院生がいますよね。
研究室にはまさにヒエラルキーができていて、丁稚奉公させられるし、その間に文章の書き方を含めて
研究の仕方を学んでいくんです。
でも日本の社会科学系って、あんまりそういうことが丁寧にされない。
それを考えると、僕は研究所にいられたので、「てにをは」を含めて自分の文章に手を入れてくれる人が
いて、すごくラッキーでした。
そういった意味でも、僕は研究所に育ててもらったというか、恩を感じています。
途上国のエネルギー問題を研究し始めたのは、大学に来てからなんです。
1992年に本学に就任しても、初期の7年近くは、研究所と大学の二足の草鞋をはいていました。
その時に、研究所のプロジェクトで、途上国におけるJICA((独)国際協力機構)関連の仕事を
したんです。
イランのプロジェクトから始まって、ポーランド、中国、インドネシア、トルコ、フィリピン、ベトナム...。大学の仕事があるので現地に行くのは夏休みや春休み、短いタームだと1週間とか。
そんなわけで、否応なく途上国のエネルギー問題をやらざるを得なくなったんです、成り行きで(笑)
でも、なんでもやり始めると、初めは興味がなくても結構面白くなってくるんです(真面目にやるとね!)。
誰でもそうだと思うのだけれど、
どうせやるなら真面目に面白く、
どうせ生きるんなら楽しく生きよう。
前向きに、ね。この仕事に関しては結構前向きですね、僕。
●先生の研究分野の面白いところは?
資源や国際関係の面白いところは、自分が想像もしないことが起こることじゃないですかね。
前述の話でいうと、JICAのプロジェクトはODA(政府開発援助)ですから、プロジェクトの形成段階では、JICAの職員が日本政府の代表として現地に行って交渉するんですね。そして交渉後には必ず会議メモを作って、お互い代表者が何が決まり何が決まらなかったかという確認のサインをして帰ってくるんです。
けれども、次に行くと「あれ?この前来たときにはこう言っていたはずなのに、また1からなの?」とか「資金を出してるのは日本なのに、何を勝手な事を言ってるんだよ(怒)」というようなことがしょっちゅうあるんです。
日本人だけの社会では通常通用しないようなことが当たり前のように起こったり、価値観が違ったり。
「日本はお金持ってるんだから、色々やるのは当たり前だろ」とか。
Give &TakeじゃなくてGive&Giveですよね(笑)
でも、そんな中で、日本人でも「この人すごいな!」という人がいるんですよ。
タフネゴシエーターというか、僕だったら諦めて「もう帰ろう~」って言っちゃいたいところを、
お互いにとってハッピーな解決方法を見つけるために根気強く、タフなネゴシエイトをする人がいる。
あれはすごいですよ。
こういった自分の体験も含めて、教科書からでは分からないことが色々見られるから面白い。
「そんなリスキーなこと、何も面白くない」という人もいると思いますが、僕は結構楽しめるというか、
良いのか悪いのか分かりませんけど、行き当たりばったりを楽しんじゃいますね。
学部長表彰を受賞するような学生でも、視野が狭くなっていることがあるよね。
成績評価のために、授業の出席点にこだわったりして。
出席点にこだわるよりも、その時間何を学んだかのほうが大切だろうと思うのだけど。
もちろん大学は教育機関ですし、大学の成績にこだわること自体が悪い訳ではないんですが、
大学生ですから、いつも自分のいる庭だけ見ているんじゃなくて、庭の外を見る、世界を見るっていうことをしてほしいね。
それが「自由度の大きな大学生の時間の使い方」ではないでしょうか?
世の中、教科書に書いてあることばっかりじゃないよ、ということをできるだけ伝えたいし、
胆力というか、自分が考えていることを自分の言葉で話せるようになってほしいと思いますね。
教科書読んで覚えて、抽象的な発言をするのでは何も面白くないし。
自分が自分の経験から何を考えるのか、一人一人個別の人生のもと、発言してもらうのが面白いよね。
■自分が「この先生は面白い」と思うかどうかによって、入ってくる情報量が全然違って。
誰が、どういう風に伝えるかも大事ですよね。
僕の授業はどうだろうね、寝てる人もいるし。
あてても「わかりません」って言う学生もいるしね。
「どう思うの?」って聞いているのに、「わからない」って。
外部での講演は、興味ある人が来てくれるので、講師としては楽ですよね。
その点、大学の授業はムズカシイよね。皆が興味を持って来てるわけじゃないもんね。
タイトルを見て、この単位が必要だからとか、このコマの時間帯が空いてるから・・・って。
今は大教室で授業をしているし、飽きない授業ってどうしたらいいのか、そこは悩みですね。
PPTのスライドもいいけれど、写したり穴埋作業をさせるよりは、本当はストーリーを聞いてほしいんだよね。
●学長職を終え、久しぶりの授業はいかがですか?
「現代社会と経済」は、今年初めて担当しました。
共通教育の科目なので、さまざまな学部の学生がいます。
タイトルは「現代社会と経済」と決められているけれど、講義の内容は自分で決めるわけで、例えば高校の「現代代社会」をチェックして、それを参考にどんなテーマにするか15回分設計するんです。大学の授業なので、金融論や財政学、国際経済、社会保障、消費者経済など、取り上げたいテーマが色々があります。それを、1テーマ1回読み切りみたいな感じで15回分にしようと思ったら、結構準備が大変だったんだ(笑)
金融論の先生が、財政学の先生が、15回分やることを、大枠だけとはいえ1回でやるってなかなかだよね。マクロ経済学を授業1回でやる!みたいな(笑)
おかげで、勉強させられた(笑)
もう6年も現場にいないと「ああ、今こんな風になっているんだ」とかね。
娘から、「お父さん、学長終わったら、木~日は授業がないから週休4日じゃない?」って言われて。
「バカモノ見てみろ」と。
「月火水どころか、木金土日まで、パソコンにむかってカタカタ働いてるじゃんか!」って(笑)
新入社員みたいだったよ(笑)
いかにサボっていたかってことだよね。
現代の事をちゃんとキャッチアップして、フォローして、見ていなかったな、っていうのがよくわかりました。学長のころだって、日経新聞は毎日読んでいたんですが、誰かに話をするわけではないですからね。
でも人に話をしようと思ったら、ちゃんとデータをチェックしてグラフを書かなくちゃいけない。
そう思って準備していたら、時間がかかりましたね。
そういう意味では、インターネットはありがたかったよね。
政府の財政赤字が1100兆円だというけれど、実際いくらだ?と調べようすると、インターネットですぐに財務省や総務省のデータが探せる。
インターネットがなかったら、僕、授業準備できなかったよ、ほんとに!(笑)
「現代社会と経済」だから、昔の資料を使っていても役に立たないでしょう?
現在赤字がどれくらいで、それにどう対応しようとしているのか、政府はいくら医療費や年金財政に予算をかけていて、医療費41兆円のうち、誰がお金を使っているのか、とか。
学生には、抽象論じゃなくて、できるだけ現実のデータやグラフを示して「ああ、半分以上70歳以上の人にお金がかかっているんだな」というようなことも含めてわかるような授業を心掛けています。
それと、今公表されている一番最新のデータを「●●年●月のデータが一番新しい」と言いながら紹介するようにしました。
2016年度までは公開データとしてわかっているのに、2012年までのデータまでしか扱わないとなると、
そりゃサボってる気になるでしょ?
ただ、データを示しても、その数値や年号が重要なわけじゃなくて、大きなトレンドとか、因果関係とか
世の中の流れの方が重要なんだよね。
その流れを見るために、実際のグラフとしてはこういう風に急激に医療費は伸びていて、と示すんです。
そこから、年々倍々ゲームで医療費が伸びてきているのはなぜなのか、それは寿命が延びているからで、
寿命が延びるということはお金のかかることで、若者たち、君らみんな大変なんだぞ、っていうことを
知ってほしい。そう思ったら、最新のデータを扱わなくちゃ、ってなるよね。
興味のある学生がいたら、データの出所はここなので、こういうところを調べればいいですよ、
という意味も含めて示していたつもりです。
●今、学生に一番伝えたいひとことは?
自分の殻を破りなさい。
「自分の枠はこれだけだ」「私はこの程度だから」と決めないで、
それを越えてチャレンジしてみてください。
「何したらいいですか?」って聞かれたら、「留学してみたら」って言うけれど。
カルチャーショックって重要だよね。
名古屋学院大学には、良い留学プログラムがたくさんありますから。
目的が無くても、何も無いからこそ、行けば変わるから。
一歩、もう少し外に出てチャレンジしてみたらいいと思うよ。
■■■ 今日の一枚 ■■■
今日の1枚は、 " レアな持ち物 " です!
オイルサンドのサンプル
砂の中にオイルが含まれており、これを生成して合成原油が作られます。
これは、カナダはアルバータ州の砂漠の地下深く1000m付近で採取できる、非常にに重たいオイルサンドで、ここから合成原油をもとに、ガソリンや軽油などの油製品が作られていくそうです。
このサンプルは、その生成過程でさまざまな状態になったオイルサンドなのだとか。
今まで頂いた中で、非常にありがたかったもの、ということでご紹介いただきました。
木船先生は、気さくで話題の幅が広く、お話を伺っていてとても面白い方です。
このブログを読んでちょっとでも興味をもってくれたNGU生のみなさん、
木船先生の研究室を訪れて、先生とお話をしてみてはいかがでしょうか。
目的があっても無くても、何も無いからこそ、小さなことが自分を変える事なきっかけになるかも
しれませんよ。
次回の★Bridge★も、お楽しみに!
チョッパー子4年生