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2014年6月アーカイブ

影島香代子さんを迎えて
 5月28日(水)午後1:30~14:45に,法学部主催の講演会がクラインホールでありました。演題は「コミュニケーション力の流儀」,講師は影島香代子さん。影島さんは静岡放送や名古屋テレビの局アナを経て,現在はフリーのアナウンサーです。数多くの番組や取材インタビューの経験と自ら体得したアナウンスの訓練法に基づいて,他者とのコミュニケーションを深めるコツや技法を,実演を混ぜながら熱心に語ってくれました。
 プロのアナウンサーが語る「コミュニケーションの流儀」とはいかなるものか? 阿川佐和子の『聞く力』の類のことか? はたまた「正しい言葉の使い方教室」か,などと想像しながら,私も聴衆の一人に加えて貰いました。
 大学教員も人前で喋ることが仕事です。研究し論文を書くことは「喋ること」と離れますが,教室での講義や社会人向けの講演,さらには学会発表も「喋り」仕事です。プロのアナウンサーに学ぶことは相当ありそうです。
 講演会の司会は法学部の山内教授。遠藤法学部長の挨拶の後に,影島香代子さんがステージに上がりました。
 『人は見かけが8割』。そんな本が店頭に平積みされベストセラーになったのは数年前のことです。人に見られ人前で喋るのが仕事のプロのアナウンサー。容姿やファッションもさることながら,声も第一印象を形成する大きな要素です。「皆さん,こんにちは」の第一声は,明るいハキハキしていて元気創造の源のようです。聴衆の掴みは,拍手の仕方指南と列ごとに競わせる拍手の大きさ。なぁ~るほど。こうして聴衆に肉体作業をさせ,ステージに意識を集中させるのだな,と感心。

講演内容のつまみ食い
 さて,講演で語られた話術の技法をつまみ食いしてみましょう。
【話し手の姿勢】
 まずは,声を出すための正しい姿勢から。会場に集まった法学部の1年生と参加していた教職員の全員が椅子から立ち上がり,胸を張って姿勢を正します。この時,両腕は真っ直ぐ下に下ろし身体の側面にピタッと当てる。それから腕は下ろしたままで,両手の手の平だけを前方に向ける。すると,肩が自然と後ろに引かれ胸が張り,綺麗な姿勢ができる。だから,スッとした綺麗な立ち姿を作るには,こうした手順を踏むと容易にそれができる。フムフム,なるほどねぇ~。
【声の出し方】
 次に声の出し方。これは腹式呼吸の練習から始まります。お腹に貯めた空気を喉の声帯に当てるようにして声を出す。腹式呼吸は出来ても,この声帯への空気の当て方というのがなかなか難しい。正しい「アイウエオ」の発声法も教えて頂きましたが,これはさらに高度なテクニックで,正直,腹判りしていません。
【発声練習】
 そして次は,正しい音を出しながらしっかり口の周りの筋肉を動かす発声練習。「アッ,エッ,イッ,ウッ,エッ,オッ,アッ,オッ」,「カ・ケ・キ・ク・ケ・コ・カ・コ」,「サ・セ・シ・ス・セ・ソ・サ・ソ」,「・・・・」とア行からワ行まで順々に進める。この発声練習が済むと,結構,口の周りの筋肉が弛緩し,口角も上がっているような気になるので不思議です。この発声練習は「ほうれい線」を消す効果もあるらしい。
【早口言葉】
 さらに早口言葉の練習。ここまで来ると,会場はハチの巣をつついたように喧噪です。そして学生の何人かが代表選手としてチャレンジし,最後は影島さんの模範演技。さすがに影島さんの早口言葉はよどみなく,プロとアマの差は歴然です。
【その他】
 この他にも「さすがにプロだね」と感心させられら技法の幾つかは次のようなものです。
 ①マイクの持ち方:マイクは下の方を持つとバランス良く綺麗に見える。今やカラオケで誰もがマイクを持つ時代。そこでは,マイクを口に銜えるがごとく接近させ,マイクの上の方を持ちがちです。ところが,立って話をする時のマイクの持ち方として,これはNG。この場合は,マイクの下の方を持ち正面を向く。すると,確かに綺麗な絵になるのです。ハハァ~ンと,感嘆。
 ②力点を置く言葉:同じ文章でもどの言葉を強く言うかで,聞き手の捉える意味が変わってくる。日本語は抑揚の言葉だから,どの単語を強調するかで,意味の捉えられ方が異なる。そりゃあ,そうだ。
 ③注意を集めるための間:私語で会場内が騒がしくなってきた時,聴衆の注意を話し手に向ける方法として「黙る」。これは「間を採る」とも言いますね。
 私も大講義室の授業で,「私語が五月蠅い」と思った時はこの手を使ってきました。しかも私の場合はさらに意地悪で,最後までお喋りしている学生に自分の視線レーザーを照射します。ロック・オン! じぃ~と黙り続けていると,潮が引くようにやがて教室内は静かになります。そして,視線レーザーを集めていた学生が喋るのを止め,その学生が視線をこちらに向けた時に言うのです。「そうです,君です。よほど面白い話があるようだから,ボクにも他の学生にそれを教えてくれよ」と。
 「間を採る」「間を置く」というのは,慣れない内は勇気が要ります。「間を採る」とは,話すことを期待されている人間に沈黙を強要することです。喋るのが仕事なのに,その真逆の行為をするのですから,実行に躊躇しがちです。でも,実際にこの技法を使い,その使い方に慣れてくると,「黙り」が静寂形成に有効な手段であることが判ります。
 ④コミュニケーションに必要な観察眼:初対面でもスムーズなコミュニケーションを運ぶために,対峙した相手の5つの「良い点」を見つける。こうした訓練を続けていると,いつの間にか観察力や質問力が高まってくる。そうですよね。
 ⑤映像を実況する:アナウンサーが行うライブ中継の如く,見えるもの,感じるものを声に出して言い続ける。これは「喋り続ける,言葉をつなげる」訓練ですが,即座に状況に相応しい単語を選び出す能力の開発には,こうした不断の努力が必要なのでしょう。

 こんな風にして約1時間半の講演が終わりました。講演後も何人かの熱心な学生がステージ周辺に集まってきて,影島さんを質問攻めにしていました。

講演の効用
 ところで,今回の講演はプロのアナウンサーにコミュニケーションの技法を教授して貰おうというのが目的でした。今回の主たる聴衆は法学部の1年生でした。しかし,今回の話の内容に最も相応しい聴衆は,教員や就職活動を控えた3年ではなかったか,と思いました。コミュニケーション技法は,プレゼンテーション技法に通ずるものがあるようです。姿勢,発音,発生,言葉の使い方,間の取り方など,教員や面接を控えた就活生こそ会得すべきスキルでしょう。
 また,その道のプロの話を聞くことは,本を読むのと同じで必ず何か新しい発見があると思います。私自身の経験でいえば,その講演テーマに大して関心が無い場合でも,講演を聞いた後には「学ぶこと,多かったなぁ~」と思うことが多々あります。話を聞いているうちにそのテーマに興味が湧くようになったり,これは自分が抱えている問題にも応用できそうだぞとヒントを得たり。そんな経験をするのは私ばかりではないから,講演会に人が集まってくるのでしょう。
 ですから,学生諸君もたとえ興味関心が薄いテーマでも,積極的に講演の場に脚を運んで欲しいと思います。自分を刺激し自分を磨く機会になり,必ず良いことが待っていると思います。