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2013年3月22日アーカイブ

講演会の案内と講師紹介
 

 2013年3月8日(水)。クラインホールで浜矩子さんを講師とする公開講演会を行った。講演タイトルは「グローバル・リスクの諸相と日本経済」。タイトルは,半年以上も前の講演依頼時に決めたものであった。当日の講演内容そして今のタイミング考えれば,「アベノミクスを斬る」とでもした方が良かったかな,と思う。


 浜矩子さんは,三菱総合研究所を経て2002年に同志社大学大学院ビジネス研究科教授に就任し,2011年からは同研究科の研究科長を努めるエコノミストである。テレビや新聞など国内外のメディアに頻繁に登場し,斬新かつ鋭い切り口で政策論議を展開している。テレビ画面でも,何の資料も見ずに論理的で明快に,しかも権力者をバッサリと斬る姿は,他の評論家たちを圧倒する。髪の毛を紫に染め,ロンドン・テイストのファッションも彼女の個性を表している。鋭い舌鋒に加え,こうしたビヘイビアも,熱烈な浜矩子ファンを増殖させる所以であろう(女性に浜矩子ファンが多いらしい)。


 公開講演会は午後3時スタートであったが,1時間前の開場時間には,良い席を確保しようと聴衆の列ができるほどであった。事前の申し込み者は900人を越え,収容人数500人強のクラインホールには納まりきれない。やむなく,モニター視聴のサブ会場を用意した。

講演の中で語られたこと
 講演で語られた内容は,およそ次の通り。
 (1)アベノミクス批判
 アベノミクスは次の5つの大罪を抱えている。それらは,①浦島太郎型公共投資,②円安神風型輸出立国主義,③相棒つぶし型金融緩和,④行き過ぎた市場対話,⑤デフレ化のバブル経済化,である。


 ①浦島太郎型公共投資:安倍政権が進めようとしている公共投資は,一過性の公共事業に資金を投じるもので,50~60年前の景気刺激策である。既存インフラの更新投資であるため,生産力増強をもたらすものではなく景気対策の効果は小さい。


 ②円安神風型輸出立国主義:現政権は,円安にすれば輸出が増え,景気が良くなると考えているようだ。しかし,円安は輸入原材料を通じてコスト上昇要因となり,中小企業や生活者にとっては厳しい。


 ③相棒つぶし型金融緩和:これまで,政府と中央銀行(日銀)は,本来,独立した意思を持つ為政機関であり,その独立性が両者をして格好の相棒と位置付けられていた。しかし,現政権は中央銀行を政府の従属機関にしてしまい,切磋琢磨の相棒を潰してしまった。これは,日本の民主主義のためにも良くない。


 ④行き過ぎた市場対話:安倍政権は市場操作に長けていると思っているようだが,市場の反応に重点を置くと,政策運営そのものが市場に左右されてしまう。公共の福祉に資する政策であっても,それが株価を下げるような効果を持つものであれば,採用されなくなる。これでは,責任ある政策運営とは言えない。


 ⑤デフレ化のバブル経済化:現在の株価上昇は,ゼロ金利下のカネ余り状態の中で,更なる金融緩和の期待によって,資金がリスクの高い資産(株式)へ向かうことに起因する。これは「生活防衛型投機」とも言える。賃金が上がらなければ,資産インフレと実物デフレが同時進行する。実物デフレは,賃金の引き上げを困難にするため,企業は労働慣行の弾力化を狙い,非正規雇用の多用化に進むだろう。

 (2)地球経済の二つのリスク
 現在のグローバル経済は,二つのリスクを抱えている。それらは,①二つの恐慌,②二つの戦争である。


 ①二つの恐慌:二つの恐慌とは,1)財政破綻に起因する恐慌,2)中央銀行に起因する恐慌,である。1)財政恐慌は,日本を含め主要国が抱え込む大幅な財政赤字が原因となる。財政は国境を越えられず,財政再建をしようとすれば,労働者に負担がかかり,実際上,既にそれが困難な状況にある。2)中央銀行恐慌は,ECB(欧州中央銀行)が2012年10月に発表した「国債買取り大宣言」に端を発する。これは,破綻寸前の国の国債に関して,市中で売れ残った国債の全てをECBが引き受けるというものだ。中央銀行は,本来,通貨価値(ここではユーロ)の番人の筈なのに,その役割を放棄してしまった。中央銀行がこうした手法を採ると,通貨価値が一気に下落する可能性がある。


 ②二つの戦争:二つの戦争とは,1)通貨戦争と2)通商戦争である。1)通貨戦争は,自国通貨の為替切り下げ競争(為替戦争)であり,デフレと失業を互いに押し付け合う構造である。1930年代にも米・英・仏で同様な競争が繰り広げられ,「三国通貨協定」が締結された。2)通商戦争は,現在のFTAやTPPに見られる。以前の貿易自由化は,GATTやWTOを舞台に,全ての国で自由貿易を推進しようとしていた。しかし,現在のFTAやTPPは,協定内の国に限定した貿易自由化であり,それから外れた国は排除される。このやり方は,WTOの「自由・無差別・互恵」の原則に反し,1930年代の「ブロック経済主義」と酷似する。国内のTPP反対論は,例外なき貿易自由化が農業等の国内産業に悪影響を及ぼすというものだが,TPPの本質は「地域限定排他的貿易協定」である。戦争へと突き進んだ1930年代の悲劇を繰り返さないために,ブロック経済化を進めるTPPには反対である。

 (3)破局に至らないために~『国富論』を越えて~
 1930年代のブロック経済から世界大戦に至った悲劇を,今また繰り返さないためには何をすべきか?その解として,『ボク(僕)富論』から『キミ(君)富論』への転換を提案する。『キミ富論』とは,自らの利益ではなく他者の利益を優先させ,ライバルに手を差し伸べよう,という考え方だ。国レベルでは,国産品愛用運動を止め,他国品を買おう。企業レベルでは,他社製品を買おう。自国・自社・自身を優先する考えに留まる限り,現在の経済問題は解決できない。以上(文責:木船)。

 

講演会後に思う
 

 ナマの浜さん(ナマ浜)は,テレビ画面を通して見る浜さんに比べて,ずぅ~とキュートであった(失礼!)。バイオレットの髪や個性的なファッションは画面と変わらないが,講演の前や後の控室でのお喋りでは,無表情でもなく強面でもない,ウィットに富んだ楽しいお人柄を感じさせられた。こっそり,その一端を書いてしまおう。
 木船「浜先生のご趣味の一つに,大量飲酒があるそうですね?」
 浜 「はい。正確には,多品種大量飲酒と言います」
 木船「ご多忙な先生ですから,いつも原稿の締め切りに追われているのでしょう?」
浜 「最近は,締め切りに追いかけられるのではなく,締め切りを追いかけています」
 
 今回の講演会でも,浜さんは,何の資料を見ないで80分間,聴衆に語り続けた。聴衆を飽きさせない様に,適当な時間にジョークを入れ,上述のように80分を3つの話題で構成する。終了のタイミングは,寸分の狂いもなく予定時間ピッタリだ。実にプロだなぁ~と感服した。
 ここ数年の浜さんの精力的な仕事ぶりには目を見張らせられる。本屋に行けば,常時,入り口付近に数種類の著書が平積みされていて,ついでに表紙には眼光鋭い浜さんの顔写真が載っているものも多いから,「あなたは,ちゃんと仕事(研究)していますか?」と問われている気分になる。大量飲酒を趣味としても,高い生産性を誇る研究者は厳然と存在するのだ。自身を叱咤激励せねば。


 浜さんはキリスト教信者であり,本学と同志社大学とはともにキリスト教主義大学というつながりもある。「これを機会に,名古屋学院大学で毎年,講演をお願いしますよ」という問いかけに,浜さんは「喜んで」と快諾してくれた。次回がいつになるかは決まっていないが,時期をみて再び登壇して頂こうと思う。
超多忙な浜さんには,くれぐれも健康にご留意していただいて,増々のご活躍をお祈りする次第である。