学生を戦地へ送るには

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『学生を戦地へ送るには : 田辺元「悪魔の京大講義」を読む』

 

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 かつて国の為に死んでいった時代がありました。対米英戦争に向かっていった1939年ころのことです。

あのころの大日本帝国はどのように侵略していったのか。そこにはある強力な悪魔的思想がありました。

京都学派、田辺元による講義は学生たちをあの戦争へ駆り立てた、そしてその講義をもとにした本は当時ベストセラーになったのです。

『歴史的現実』。

この悪魔的思想書『歴史的現実』を、2泊3日でセミナーを開き、読み解こうと試みた、その内容が一冊の本になった。それがこの本です。

ちなみにこのセミナーは箱根の仙石原(エヴァンゲリオンの舞台として知られる)という静かでとても心地よさそうな場所でおこなわれたそうです。戦争中に知識人や文化人なんかはこういうところに避難していたみたいです。

哲学者西田幾多郎と共に知られる田辺ですが、その説得力ある強力な論理で、「死」を受け入れろ、超越しろ、簡単にいえば「国の為に死ね」、というメッセージを送り込み、それが学生たちに感染していくんですね。ちょっと恐ろしい。

著者はこの田辺の本を丁寧に解説していくことで、彼の理論がいかに強力で、説得力があり、でもちょっと考えるとでたらめじゃないか、と納得させてくれます。

ああ、エリートって案外こういうロジックにひっかかりやすいんだな、いやむしろエリートだからこそこういう頭の良い人に説かれると「感染」していくんだなということがわかります。

著者が言いたいのは今後日本でこういう悪魔的思想が出てくる可能性はある、だからこの本を読んで耐性をつける、いわば予防接種を受けておこうということです。

戦争には二種類の性質がある。一つは他国から、他民族から自分たちの土地を侵略されるという種類のもの。これは自らの祖国を守るために戦争をするわけだから、大義名分がある。

ところが逆に他国の領土獲得のための侵略戦争を行うには、国民の同意を得るためにそれなりの理由が必要になる。だから田辺が行ったような強力な理論が(学生を戦地へ送るには)必要になるんですね。

と考えると田辺元が侵略戦争を擁護しようとしていたことがわかります。

このように戦前にどんなことが起きていたのかを考えていくことがこの本、この講義の目的ですが、もう一つこのセミナーでは当時の雰囲気をつかむために、当時ヒットした国策映画『敵機空襲』を観ています。43年の映画ですがこれを観ると当時の雰囲気が分かると言います。43年はもう空襲が始まっていて、敗戦のにおいがしていたころだと思いますが、一般人にはあまりそういうことが現実として分かってないらしいのです。

(この映画、図書館にあるといいな。)

当時はこういった国策映画がけっこうあったみたいですね。

著者佐藤さんは当時の国内外の歴史、政治だけでなく思想、文学、宗教、哲学といったことに深く見識があるので、現代から考えてみると困難なようなことでもなんとか理解することができます。この本は講義形式でかかれているので読みやすく、腰を据えて集中講義をうけるような感じで読んでいただくと良いと思います。

 

図書館SA あっきー

 

 

 

 

 

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